診察ナビちゃん
カルテ作成

SOAPカルテの書き方|動物病院の実例つき

診察ナビちゃん編集部

最後の飼い主さんを見送って、ようやく一息。そこから、今日診た子たちのカルテを思い出しながら書いていく。メモには「嘔吐 3回?」としか残っていなくて、手が止まる。

そんな夜に覚えがある先生に向けて、この記事を書きました。

カルテの基本の型である SOAP は、学生のときに習います。それでも「忙しい日ほど書けない」「若手に教えにくい」「人によって書き方がばらばら」という悩みは、多くの病院に残っています。

この記事では、次の順で話を進めます。

  1. なぜカルテは後回しになるのか(診察ナビちゃんの利用データから)
  2. カルテに最低限書くことと、SOAP の分け方
  3. 実例で見る書き方と、忙しい日でも崩れないコツ
  4. 録音と AI で書く時間を減らす方法と、その注意点

カルテが後回しになるのは、怠けているからではない

「診察のすぐあとに書けばいい」。それは誰もが分かっています。分かっていてもできないのには、理由があります。

診察ナビちゃんには、診察の会話を録音した記録が残っています。2025年10月から2026年9月までの 1 年間に、89 の動物病院(無料トライアル中を含む)で録音された診察 67,981 件、約 13,300 時間分を集計しました。個別の病院や患者さんが分からない形にした数字です。

診察は、午前の 3 時間に半分近くが集まる

録音が保存された時刻を、時間帯ごとに数えました。

時間帯ごとの診察の割合

9時台14.8%
10時台17.6%
11時台15.5%
12時台7.7%
13〜15時台6.7%
16時台10.1%
17時台10.6%
18時台8.3%
19時以降7.0%

診察ナビちゃんの利用データ(2025年10月〜2026年9月、67,981件)。8時台以前の 1.7% は省略。

9 時台から 11 時台の 3 時間に、1 日の診察の 48% が集まっています。夕方の 16 時台から 18 時台が 29% です。待合室に次の飼い主さんがいる時間に、前の子のカルテを丁寧に書く余裕はありません。

曜日で見ると、いちばん多いのは土曜日で、1 週間の 19% を占めます。

1 日に話している時間は、中央値で 75 分

2026年7月から9月の 3 か月について、獣医師 1 人が 1 日に録音した量を数えました(のべ 4,950 日分)。

件数 録音の合計時間
真ん中の人(中央値) 6 件 75 分
多いほうから 4 分の 1 の人 12 件以上 149 分以上

1 件の診察の長さは、中央値で 8.3 分でした。半分の診察は 4.6 分から 14.3 分の間に収まります。

75 分の会話を、あとから思い出して書く。それが「診察後のカルテ」の正体です。8 分の会話でも、文字にすれば原稿用紙で何枚にもなります。夜になって細かい数字を思い出せないのは、記憶力の問題ではなく、量の問題です。

では、この量を前にして、カルテには最低限なにを書けばよいのでしょうか。まず、決まりごとから確かめます。

カルテに最低限書くことは、6 つだけ

カルテ(法律では「診療簿」と呼びます)を書くことは、獣医師法で決められた義務です。診療をしたら「遅滞なく」書くこと、と定められています。

書く内容は、次の 6 つです。

  1. 診療した日
  2. 動物のこと(種類、性別、年齢、名前、頭数、特徴)
  3. 飼い主さんの名前と住所
  4. 病名と、主な症状
  5. 飼い主さんから聞いた話(法律の言葉では「りん告」)
  6. 治療の内容(処方と処置)

保存する期間は、犬や猫なら 3 年間です(牛・水牛・しか・めん羊・山羊は 8 年間)。書かなかったり、保存しなかったりすると、20 万円以下の罰金の対象になります。

ここで気づくことがあります。法律は「飼い主さんから聞いた話」と「病名・症状」と「治療」を、別々の項目として求めています。つまり、聞いた話と、自分で確かめたことと、行ったことを分けて書く。これは SOAP の考え方そのものです。

SOAP で書くこと自体は義務ではありません。ただ、SOAP で書いておけば、法律が求める項目を自然に満たせます。

SOAP は「誰が言ったか」「何をしたか」で分ける

SOAP は、記録を 4 つに分けて書く方法です。1968 年にアメリカの医師が提案し、人の医療から獣医療に広まりました。

難しく考える必要はありません。分け方の基準は 2 つだけです。

何を書くか 見分け方
S 飼い主さんから聞いた話 飼い主さんが言ったこと
O 診察して分かったこと 先生が測った、見た、触った
A 先生の考え 何を疑い、なぜそう考えたか
P これからすること 検査、治療、飼い主さんへの説明

「元気がない」という同じ言葉でも、飼い主さんが言ったなら S、先生が診察室で見てそう感じたなら O です。迷ったら「これは誰が確かめたことか」と考えると、置き場所が決まります。

とはいえ、表だけ見ても書けるようにはなりません。実際の診察で、どう書き分けるかを見ていきます。

実例: 吐いて来院した柴犬

柴犬、5 歳、去勢した男の子。昨日の夜から吐いている、という架空の例です。書き方を見てもらうための例で、診療の方針を示すものではありません。

S: 飼い主さんの言葉を、回数と時刻つきで

忙しいと、こう書いてしまいがちです。

昨日から嘔吐

これでは、次に診る先生にも、1 週間後の自分にも、重さが伝わりません。同じ内容を、こう書きます。

昨夜 21 時ごろから今朝までに 4 回嘔吐。1 回目は未消化のフード、3 回目以降は黄色い液体。今朝は食欲なし、水は飲む。下痢なし。2 日前の散歩中に、何かを拾い食いしたかもしれない。ワクチン・フィラリア予防は済み。

ポイントは 3 つです。

  • 回数、時刻、吐いたものを、飼い主さんが話したとおりに書く
  • 「下痢なし」のように、ないと確かめたことも書く
  • 「胃腸炎っぽい」のような先生の考えは、ここには書かない(A に書く)

O: 測った数字と、見て触って分かったこと

体重 9.8 kg(前回 10.1 kg)。体温 38.9 ℃、心拍数 110 回/分、呼吸数 24 回/分。可視粘膜ピンク、CRT 2 秒未満。皮膚をつまむと、戻りがわずかに遅い。腹部の触診で痛がる様子なし、異物は触れず。

前回の体重を並べて書いておくと、次に見たときに変化がすぐ分かります。検査をしたら、結果の数字と、基準から外れているかどうかを書きます。

A: 病名だけでなく、理由と「まだ否定できていないこと」

急性胃腸炎をいちばんに疑う。拾い食いの可能性があるので、消化管内異物はまだ否定できない。発熱と腹痛がなく、いまのところ膵炎を強く疑う所見は乏しい。脱水は軽度。

「急性胃腸炎」の一言だけだと、もし良くならなかったときに、次の先生はどこから考え直せばよいか分かりません。「異物はまだ否定できない」と書いてあれば、次の一手がすぐ決まります。

気になる点が複数あるときは、番号を付けて並べ、ひとつずつ考えを書くと、あとで追いやすくなります。

P: 伝えたことと、「こうなったら来てください」まで

吐き気止めを皮下注射(薬の名前・量・投与方法を書く)。皮下輸液。12 時間絶食のあと、消化器用フードを少量から再開するよう説明。吐き続ける、ぐったりする、血が混じる場合はすぐ来院するよう伝えた。良くならなければ 2 日後に再診し、X 線検査を検討。

P には 3 つのことを書きます。

  • 次に行う検査と、それを行う条件
  • 治療の内容。薬は名前・量・投与方法・日数まで
  • 飼い主さんに伝えたことと、再診の目安

「こうなったら来てください」を書いておくと、あとで飼い主さんから電話があったとき、受けたスタッフが同じ内容で答えられます。

ここまで読んで、「書くべきことは分かった。でも、あの忙しさの中でここまで書けない」と感じた先生も多いはずです。次は、忙しい日でも崩れにくくするコツです。

忙しい日でも崩れない 5 つのコツ

1. 診察中に、数字だけはメモする。 あとから思い出せないのは、ほとんどが数字です。体重、体温、吐いた回数、薬の量。文章はあとでも書けますが、数字は書けません。

2. 「なし」を書く。 「下痢なし」「腹痛なし」は 4 文字で済みます。これがあるだけで、次に診たときの比較ができます。

3. A には「次に疑うもの」を 1 つ書く。 完璧な鑑別リストは要りません。「良くならなければ異物を疑う」の 1 行があれば、引き継ぎができます。

4. 薬は、名前・量・日数をセットで書く。 「抗生剤処方」だけでは、法律が求める「処方」の記録として足りません。問い合わせにも答えられません。

5. 院内で、略語と書く順番をそろえる。 人によって書き方が違うと、読むたびに解読が必要になります。よく使う略語の一覧を 1 枚作るだけで、若手への説明も短くなります。

ただ、コツで減らせる時間には限りがあります。1 日 75 分の会話を、手で書き起こすこと自体を変えないかぎり、夜のカルテはなくなりません。そこで出てきたのが、診察を録音して AI に下書きを作らせる方法です。

録音して、AI に下書きを作らせる

流れは単純です。

  1. 診察を始めるときに、録音ボタンを押す
  2. いつもどおり診察する
  3. 録音を止めると、会話が文字になる
  4. 文字になった会話から、AI が S・O・A・P に分けた下書きを作る
  5. 先生が読んで直し、カルテにする

先生の仕事が「思い出して一から書く」から「下書きを読んで直す」に変わります。数字や飼い主さんの言葉は録音に残っているので、夜に思い出す必要がなくなります。

帰りが 21 時から 19 時台になった病院

実際に使っている病院の話を紹介します。

長野県の御代田町あおば動物病院は、獣医師が院長の小出鉄雄先生 1 人の病院です。困っていたのは、診療が終わってからのカルテの整理でした。

使い始めてからの変化を、小出先生はこう話しています。

カルテを書く時間は、圧倒的に短縮になりました。その分、1 件あたりにかけられる時間が増えました。

去年までは 9 時とか、遅いと 10 時まで整理で帰りが遅くなっていたんですけど、今は遅くても 7 時台には帰れるようになりました。

変わったのは先生だけではありません。小出先生からいただいたメールには、こう書かれていました。

当院は獣医師が1人のため、看護師に手伝ってもらう業務が多くなりがちでした。その中で看護師が問診をとり、その内容を更にメモに書き直すといったことを日々おこなっていたので、診察ナビちゃんにまとめていただけるのは大変助かっております。

問診を取り、メモに書き、清書する。その二度手間が、いまはこうなっています。

今は録音して、それを見てチェックするだけで終わりなので、看護師の負担はすごく減っていると思います。

お話の全体は、インタビュー動画(約 2 分半)で見られます。

診察ナビちゃんの利用データでは、いま録音の 95% で、診察中から会話がその場で文字になる機能が使われています(2026年9月)。診察が終わった時点で文字起こしができているので、下書きを待つ時間もほとんどありません。

ここで、当然の疑問が出てきます。AI が作った下書きを、そのままカルテにして大丈夫なのか。

AI の下書きは、どこまで信用できるか

結論から言うと、そのまま使ってはいけません。読んで直す前提なら、役に立ちます。

この種の AI は、人の医療で先に使われ始めました。そこで分かってきたことを紹介します。動物病院や日本語での調査ではないので、数字はそのまま当てはまらないかもしれませんが、どこに気をつければよいかの手がかりになります。

負担は減るが、ゼロにはならない。 アメリカの 6 つの医療グループで、医師など 263 人に 30 日間使ってもらった調査では、「燃え尽きている」と答えた人の割合が 51.9% から 38.8% に下がりました。診療時間外に記録を書く時間は、週に 0.9 時間減りました。

間違いのない AI は、まだない。 6 つの製品に同じ診察の音声を聞かせて比べた調査では、どの製品の下書きも出来は良いと評価されましたが、間違いが一つもない製品はありませんでした。

その調査などで見つかった間違いを、動物病院の場面に置き換えるとこうなります。

起きやすい間違い たとえば 読むときに見るところ
抜ける 話したのに、再診の目安が書かれていない 飼い主さんへの説明、「なし」と確かめたこと
ぼかされる 具体的な所見が、あいまいな言葉になっている 病名、検査の項目、所見
置き場所が違う 飼い主さんの話が O に入っている S と O
話した人を取り違える ご家族 2 人と先生の会話で、誰の発言かが入れ替わる 3 人以上で話した診察
ないことを書く 音声にない言葉が、文字起こしに入る 無言の時間が長かった診察

いちばん多いのは「抜ける」です。書いてあることは読めば確かめられますが、書かれていないことには気づきにくい。だから、読むときは「合っているか」より「足りないものはないか」を探します。

下書きを使うときの決まりごとは、4 つです。

  • 薬の名前、量、数字は、必ず自分の目で確かめる。 ここの間違いは、そのまま投薬の間違いになります。
  • 「足りないもの」を探す。 説明した内容と、再診の目安が残っているかを見ます。
  • 所見は声に出す。 AI に分かるのは、声になったことだけです。「体温 38.9、お腹は痛がらない」と口に出しておくと、O に入ります。飼い主さんにも伝わるので、説明にもなります。
  • 最後に決めるのは先生。 カルテを書く義務があるのは獣医師です。AI が作るのは下書きです。

もう一つ、録音となると気になるのが、飼い主さんの受け止め方です。

録音することを、飼い主さんにどう伝えるか

診察の録音には、飼い主さんの名前や話した内容が入ります。これは個人情報です。

個人情報保護委員会は、電話の録音について、「何のために使うか」を知らせる義務はあるが、「録音していること」まで伝える義務はない、という考えを示しています。診察室の録音も、同じ考え方が当てはまると考えられます。

とはいえ、あとから知って「聞いていない」と感じる飼い主さんを出さないほうが、病院にとっても安心です。受付や診察室に、短い掲示を出しておくことを勧めます。

当院では、診療の記録を正確に残すため、診察中の会話を録音しています。録音は記録の作成以外には使いません。ご不安な方は、スタッフにお声がけください。

録音が残っていることは、飼い主さんにとっても「言った・言わない」を防ぐ材料になります。

なお、カルテをパソコンなどのデータで保存することは認められています。農林水産省は、次の 3 つを条件にしています。

  • 必要なときに、画面や紙で読めること
  • パスワードなどで、関係のない人が見られないようにすること
  • 保存する期間中は元に戻せて、書き換えや消去があったかを確かめられること

まとめ

  • カルテが後回しになるのは、診察が午前と夕方に集中し、1 日に 75 分ぶんの会話を思い出して書くことになるから
  • カルテに最低限書くことは 6 つ。SOAP で書けば自然に満たせる
  • SOAP は「誰が言ったか」「何をしたか」で分ける。S は飼い主さんの話、O は先生が確かめたこと、A は考え、P はこれからすること
  • 忙しい日は、数字のメモと「なし」の記録を優先する
  • 録音と AI を使うと、「思い出して書く」が「読んで直す」に変わる。ただし下書きは必ず読み、足りないものを探す

診察ナビちゃんでできること

診察ナビちゃんは、現役の臨床獣医師が「自分が現場で使うために」作った、動物病院向けの AI 音声カルテです。

  • 録音ボタンを押すだけで、文字起こしから SOAP の下書きまで自動で進みます
  • 録音中の会話がその場で文字になるので、診察が終わった時点で文字起こしができています
  • 文字起こしの全文と SOAP の両方が残ります。下書きに足りないものがないか、見比べて直せます
  • いまお使いの電子カルテには、SOAP をコピーして貼り付けられます。印刷もできます
  • 飼い主さん向けの病状説明書や、紹介状・診断書の下書きも作れます

30 日間、すべての機能を無料で試せます。クレジットカードの登録は要りません。

AI カルテを選ぶときに何を確かめればよいかは、動物病院のAIカルテ、後悔しない選び方にまとめています。

出典

診察ナビちゃんの利用データについて。 診察として録音されたもののうち、30 秒未満のもの、複数の録音をつなげて作ったもの、分割して作ったものを除いて集計しました。時刻は録音が保存された時刻です。個別の病院・獣医師・患者が分かる情報は含みません。