動物病院のAIカルテ、後悔しない選び方
診察ナビちゃん編集部
「診察を録音するだけで、カルテができます」。
そう書かれたサービスの案内を、いくつか見比べたことがある先生もいると思います。どれも同じことを言っているように見えて、違いが分からない。料金の仕組みもばらばら。忙しい中で何社も試す時間はない。結局、決めきれずにそのままになっている。
この記事は、そんな先生のために書きました。
読み終えたときに、「自分の病院は何を確かめればよいか」「いくらかかりそうか」「どう試せば 2 週間で判断できるか」が分かることを目指しています。SOAP の書き方そのものは、SOAPカルテの書き方|動物病院の実例つきで説明しています。
最初に、期待しすぎないために
選び方の前に、AI カルテで何が変わり、何が変わらないのかを確かめておきます。ここを取り違えると、どの製品を選んでも「思っていたのと違う」になるからです。
AI カルテがしてくれるのは、診察の会話を文字にして、S・O・A・P に分けた下書きを作ることです。先生の仕事は「思い出して一から書く」から「下書きを読んで直す」に変わります。
この種の AI は、人の医療で先に使われ始めました。そこでの調査から、3 つのことが分かっています。動物病院や日本語での調査ではありませんが、選ぶときの考え方として役に立ちます。
1. 楽にはなる。ただし、書く仕事がなくなるわけではない。 アメリカの 6 つの医療グループで、医師など 263 人に 30 日間使ってもらった調査では、「燃え尽きている」と答えた人が 51.9% から 38.8% に減りました。一方、診療時間外に記録を書く時間の減り方は、週に 0.9 時間でした。気持ちの負担は大きく減るが、時間が半分になるわけではない、という結果です。
2. 製品によって、効果が違う。 医師 238 人を、製品 A を使う人、製品 B を使う人、使わない人にくじで分けて比べた試験があります。記録にかかる時間は、片方の製品では 9.5% 減りました。もう片方の製品では、使わない人との差が確かめられませんでした。
3. 間違いのない製品は、まだない。 6 つの製品に同じ診察の音声を聞かせて比べた調査では、どの製品でも、話した内容の一部が下書きから抜けていました。
つまり、「どれを選んでも同じ」ではありません。そして、選ぶ基準は「間違えないか」ではなく、「間違いに気づいて直しやすいか」です。
では、自分の病院に合うかどうかは、何を見れば分かるのでしょうか。
その前に: 電子カルテごと替えるか、今のまま足すか
AI カルテには、大きく 2 つの型があります。最初にここを決めると、比べる相手が半分に減ります。
| 電子カルテごと替える型 | 今のカルテに足す型 | |
|---|---|---|
| どんなものか | AI 機能つきの電子カルテに入れ替える | 今のカルテはそのまま。下書きだけ AI が作る |
| 始めるまでの手間 | 患者さんのデータの移し替えと、全員の操作の覚え直し | 小さい。できた下書きを、今のカルテに貼り付ける |
| 向いている病院 | ちょうどカルテの入れ替えを考えている | 今のカルテを変えたくない。まず試したい |
日本の動物病院の多くは、小さな所帯です。農林水産省の統計では、犬や猫などを診る診療施設は全国に 13,046 か所あり、そのうち 8,067 か所(62%)は獣医師が 1 人、2 人以下まで含めると 82% になります(2025年12月末)。
データの移し替えを担当する人も、新しい操作を教える人も、たいていは院長先生ご自身です。いまのカルテに大きな不満がないなら、「足す型」から始めるほうが、診察を止めずに済みます。
型が決まったら、次は中身です。
導入前に確かめる 8 つのこと
1. 録音が、診察の流れを止めないか
どんなに賢い AI でも、録音を始めるのが面倒なら使わなくなります。
- 録音の開始と停止が、ボタン 1 つで済むか
- 診察室で使う端末(パソコン、タブレット、スマートフォン)で動くか
- 止め忘れたときに、どうなるか
受付から診察室へ移動しながら使うなら、スマートフォンやタブレットのアプリがあると始めやすくなります。
2. 獣医療の言葉を、正しく文字にできるか
薬の名前、検査の項目、犬種や猫種。一般向けの音声入力が苦手にする言葉です。ここは、案内文を読むより、実際にしゃべってみるのがいちばん早く分かります。ふだんの診察で使う言葉を 5 分話して、文字になったものを読んでください。
3. 抜けに、気づけるか
いちばん多い間違いは「抜け」です。話したはずの再診の目安が、下書きにない。これは、下書きだけを読んでいても気づけません。
- 会話を文字にした全文が残り、下書きと見比べられるか
- 下書きを、その画面で直せるか
全文が残らない製品だと、抜けたことを確かめる方法がありません。
4. ご家族やスタッフが一緒でも、混ざらないか
飼い主さんがご夫婦で来る。動物看護師が保定しながら話す。動物病院の診察は、3 人以上で話すことがよくあります。先ほどの 6 製品の比較では、3 人以上になると、誰の発言かを取り違える製品がありました。診察と関係のない世間話を、カルテに入れてしまう製品もありました。
5. カルテとして、きちんと残せるか
AI が下書きを作っても、カルテを書いて保存する義務があるのは獣医師です。
- 飼い主さんから聞いた話、症状、病名、治療の内容が、分かれて残るか(法律で書くことが決まっている項目です)
- 3 年間、保存できるか(犬や猫のカルテの保存期間です)
- やめたあとも、データを取り出せるか
- 誰が見られるか、誰が操作したかを管理できるか
「やめたあと」は見落としがちです。解約したらカルテが読めなくなる、では困ります。
6. 今のカルテと、どうつなぐか
「足す型」の場合、できた下書きを今のカルテに移す操作が毎回発生します。コピーして貼り付けるだけで済むか、試してください。紙のカルテなら、印刷できるかを確かめます。
7. 録音が、どこで処理されるか
診察の録音には、飼い主さんの名前や話した内容が入ります。
- 文字起こしや下書きの作成に、どこの AI を使っているか
- 通信は暗号化されているか。病院ごとにデータは分かれているか
- 2 段階認証など、不正なログインを防ぐ仕組みがあるか
病院として、録音を何に使うかを飼い主さんに知らせる必要があります。掲示やプライバシーポリシーに書けるだけの説明を、サービスの提供元がしてくれるかも見ておきます。
8. 料金の数え方が、自分の病院に合うか
これがいちばん分かりにくいところです。月額が決まっているもの、録音した時間で決まるもの、使う人数で決まるものがあります。
録音した時間で決まる料金の場合、「うちは月に何時間録音するのか」が分からないと、比べようがありません。ここは、次の章で実際のデータを使って説明します。
料金で後悔しないために: 月に何時間、録音するのか
「1 回の診察は 10 分くらい」「1 日 30 件くらい」。そう思って計算すると、多くの場合、実際より多めの数字が出ます。全部の診察を録音するとは限らないからです。
診察ナビちゃんの利用データで、実際の数字を見てみます。個別の病院が分からない形で集計したものです。
1 件の診察は、中央値で 8.3 分
2025年10月から2026年9月の 1 年間に録音された、診察 67,981 件の長さです。
診察 1 件の長さ
診察ナビちゃんの利用データ(2025年10月〜2026年9月、67,981件)
10 分未満の診察が、全体の 59% です。ワクチンや短い再診が多いことが分かります。
気をつけたいのは、30 分以上の診察です。件数では 5.7% しかありませんが、録音時間の合計では 25% を占めます。初診や、じっくり説明する診察が多い病院は、件数のわりに録音時間が伸びます。
獣医師 1 人あたり、1 日 75 分
2026年7月から9月の 3 か月で、獣医師 1 人が 1 日に録音した量です(のべ 4,950 日分)。
| 件数 | 録音の合計 | |
|---|---|---|
| 真ん中の人(中央値) | 6 件 | 75 分 |
| 多いほうから 4 分の 1 の人 | 12 件以上 | 149 分以上 |
病院全体では、月 44.5 時間が真ん中
同じ 3 か月について、契約して使っている病院の、1 か月の録音時間です。
| 1 か月の録音時間 | 割合 |
|---|---|
| 20 時間未満 | 33% |
| 20〜50 時間 | 20% |
| 50〜100 時間 | 25% |
| 100 時間以上 | 23% |
真ん中の病院で月 44.5 時間。4 分の 3 以上の病院は、月 100 時間に届いていません。一方で、獣医師が何人もいる病院は 100 時間を大きく超えます。
自分の病院の時間を見積もる
ここまでの数字を使うと、ざっくりした見積もりができます。
月の録音時間 = 獣医師 1 人の 1 日の録音時間 × 獣医師の人数 × 月の診療日数
たとえば、獣医師 1 人、月 24 日診療の病院なら、
- ふつうの使い方(1 日 75 分): 75 分 × 24 日 = 月 30 時間
- 多めの使い方(1 日 150 分): 150 分 × 24 日 = 月 60 時間
獣医師が 3 人いれば、この 3 倍です。
もう一つ、季節も考えます。狂犬病の予防注射やフィラリアの予防が重なる春は、件数が増えます。いちばん忙しい月の件数でも計算して、上限を超えたときにいくらかかるかを確かめてください。
料金の見当がついたら、いよいよ実際に試します。ただ、なんとなく数日使うだけでは、違いは見えてきません。
2 週間で判断するための試し方
コツは、うまくいきそうな診察だけでなく、間違いが出やすい診察をわざと混ぜることです。
1 週目: 先生 1 人が、1 日ぶんを全部録音する
次の診察が入るようにします。
- 薬の名前と量をたくさん話す診察(持病の再診など)
- 数字が多い診察(血液検査の結果の説明など)
- 飼い主さんが 2 人以上いる診察
- 世間話が多い診察
- 短い診察(ワクチンなど)
下書きができたら、1 件ずつ、次の 4 つを数えます。紙に正の字で十分です。
| 数えるもの | 見るところ |
|---|---|
| 抜けていたこと | 説明した内容、再診の目安、「なし」と確かめたこと |
| 間違っていたこと | 薬の名前、量、数字、右と左 |
| 置き場所の違い | 飼い主さんの話が、先生の所見のところに入っていないか |
| 直すのにかかった時間 | 手で書いていたときと比べてどうか |
2 週目: ほかの先生とスタッフにも使ってもらう
続くかどうかは、操作が診察の流れに合うかで決まります。途中で使わなくなった人がいたら、理由を聞いてください。「録音を押し忘れる」「貼り付けが面倒」といった小さな理由が、導入後にそのまま残ります。
最後に: 保存と取り出しを試す
1 週間前の診察を探せるか。印刷できるか。データを取り出せるか。ここまで確かめて、判断します。
申し込みにクレジットカードの登録が要らないサービスなら、試したあとに勝手に料金がかかる心配がありません。
導入前によく出る不安
試す前の段階で、こんな不安を聞くことがあります。
飼い主さんに、嫌がられないか
録音について、受付や診察室に短い掲示を出しておくことを勧めます。
当院では、診療の記録を正確に残すため、診察中の会話を録音しています。録音は記録の作成以外には使いません。ご不安な方は、スタッフにお声がけください。
個人情報保護委員会は、電話の録音について、「何のために使うか」を知らせる義務はあるが、「録音していること」まで伝える義務はない、という考えを示しています。それでも、先に知らせておくほうが、あとで不信感を持たれずに済みます。録音が残ることは、飼い主さんにとっても、説明の「言った・言わない」を防ぐ材料になります。
機械が苦手でも、使えるか
確かめる方法は単純で、いちばん機械が苦手なスタッフに、説明なしで録音を始めてもらうことです。それで始められるなら、院内に広がります。
診察室がにぎやかでも、大丈夫か
犬が鳴く、機械の音がする。これは使ってみないと分かりません。試すときに、いちばんにぎやかな時間帯の診察を 1 件入れてください。
AI が間違えたら、誰の責任か
カルテを書く義務があるのは獣医師です。AI が作るのは下書きで、読んで直して確定するのは先生です。だからこそ、3 つ目の「抜けに気づけるか」が大事になります。
使っている先生の声
数字や確認点を並べてきましたが、実際に使うとどうなるのか。獣医師 1 人の病院の例を紹介します。
長野県の御代田町あおば動物病院は、院長の小出鉄雄先生が 1 人で診ている病院です。いちばんの悩みは、診療が終わってからのカルテの整理でした。
使い始めたときの印象を、小出先生はこう話しています。
もう 1 件目から「すごい」と思いました。録音ができていることと、最終的に AI がまとめてくれるものが、すごく正確だったので。
その後の変化です。
カルテを書く時間は、圧倒的に短縮になりました。その分、1 件あたりにかけられる時間が増えました。
去年までは 9 時とか、遅いと 10 時まで整理で帰りが遅くなっていたんですけど、今は遅くても 7 時台には帰れるようになりました。
動物看護師の仕事も変わりました。小出先生からいただいたメールには、こう書かれていました。
当院は獣医師が1人のため、看護師に手伝ってもらう業務が多くなりがちでした。その中で看護師が問診をとり、その内容を更にメモに書き直すといったことを日々おこなっていたので、診察ナビちゃんにまとめていただけるのは大変助かっております。
いまは、こうなっています。
今は録音して、それを見てチェックするだけで終わりなので、看護師の負担はすごく減っていると思います。
「時間が減った」ことに加えて、「1 件あたりにかけられる時間が増えた」という点は、先に紹介した海外の調査とも重なります。その調査でも、使った医師は「患者に注意を向けられるようになった」と答えていました。
人手が足りない中で病院を回している先生にとって、この変化は小さくありません。メールは、こう結ばれていました。
昨今の人材不足はどの分野でも問題になっているところですが、このようなツールがあるととても働きやすくなり助かります。
これから選ぶ先生に向けて、小出先生はこう言っています。
とにかく 1 回やってみてもらったらいいと思います。
お話の全体は、インタビュー動画(約 2 分半)で見られます。
診察ナビちゃんの場合
診察ナビちゃんは、現役の臨床獣医師が「自分が現場で使うために」作った、動物病院向けの AI 音声カルテです。8 つの点には、次のように対応しています。
| 確かめること | 診察ナビちゃん |
|---|---|
| 1. 録音の操作 | 録音ボタンを押すだけ。ブラウザと、iPhone / iPad・Android のアプリで使えます。無音が続くと自動で止まります |
| 2. 言葉の聞き取り | 録音中の会話が、その場で文字になります。病院ごとに、AI への指示を変えられます |
| 3. 抜けに気づけるか | 文字起こしの全文と SOAP の両方が残り、見比べられます。SOAP は画面で直せます |
| 4. 複数の人の会話 | 無料トライアルで、ご自身の診察で確かめてください |
| 5. カルテとして残す | S・O・A・P を分けて残します。スタッフの権限を分けられ、操作の記録も残ります |
| 6. 今のカルテとの関係 | 「足す型」です。SOAP をコピーして、今の電子カルテに貼り付けられます。印刷もできます |
| 7. 録音の処理 | 文字起こしと SOAP の作成には、外部の AI サービスを使います。通信の暗号化、病院ごとのデータの分離、パスキーによる 2 段階認証、IP アドレスの制限に対応しています |
| 8. 料金 | 月の録音時間で決まります。月 100 時間までのプランと、月 240 時間までのプランがあります。詳しくは料金をご覧ください |
30 日間、すべての機能を無料で試せます。クレジットカードの登録は要りません。
まとめ
- AI カルテで、書く仕事はなくならない。「思い出して書く」が「読んで直す」に変わる
- 製品によって効果は違う。間違いのない製品はないので、「間違いに気づいて直しやすいか」で選ぶ
- 最初に、電子カルテごと替えるか、今のカルテに足すかを決める
- 料金は、月の録音時間を見積もってから比べる。獣医師 1 人で、月 30〜60 時間が目安
- 試すときは、間違いが出やすい診察をわざと混ぜて、抜けと間違いを数える
出典
診察ナビちゃんの利用データについて。 診察として録音されたもののうち、30 秒未満のもの、複数の録音をつなげて作ったもの、分割して作ったものを除いて集計しました。個別の病院・獣医師・患者が分かる情報は含みません。
- 飼育動物診療施設の開設届出状況(農林水産省、令和7年)
- 獣医師法(e-Gov 法令検索) 第21条
- 獣医師法施行規則(e-Gov 法令検索) 第11条・第11条の2
- 個人情報保護委員会 FAQ Q1-10(通話の録音)
- Olson KD ほか. JAMA Network Open. 2025.(263 人の調査)
- Lukac PJ ほか. NEJM AI. 2025.(238 人をくじで分けた試験)
- Ha E ほか. JMIR Human Factors. 2025.(6 製品の比較)